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ウクライナ侵略を続けるプーチン露大統領が海軍の日の演説で、北方領土の周辺海域を「国益にとって戦略的に重要」と述べ、「あらゆる手段を用い、断固として防衛する」と強調した。
77年前の1945年8月9日、独裁者スターリンは日ソ中立条約を一方的に破り、ウクライナ侵略と変わらぬ残虐な攻撃の末、北方四島を強奪、不法占領した。それを「断固防衛」とは盗人猛(たけ)々(だけ)しい。「無法国家」の本性を現した妄言である。
7月末、「海洋安保でもロシアへの主な脅威は米国と北大西洋条約機構(NATO)だ」とする新たな海洋ドクトリンに署名した後に演説した。プーチン氏は「国益上、重要な領域を明確にした」と独断的に語り、北極海やバルト海、オホーツク海と並べて、ウクライナ沿岸海域の奪取を狙う黒海と「クリール諸島(北方領土と千島列島)の諸海峡」を挙げた。
時代を超えて領土・領海を2人の独裁者に侵略されている日本とウクライナは連帯と結束を一層深め、ロシアの非道を根気強く国際社会に訴え続けねばならない。
ロシアはウクライナ侵略後、北方領土についても身勝手な姿勢を強めている。3月に平和条約交渉の一方的中断を通告した後、トルトネフ副首相が独自開発や投資で「北方領土をロシアのものにする」と暴言を吐いた。対独戦勝記念日の5月9日には択捉島で初めての軍事パレードを行った。8月末からは択捉、国後両島を含む極東地域で大規模軍事演習を実施する。中国軍も参加する予定だ。
新ドクトリンは「偉大な海洋大国」への野望が露(あら)わだ。アジア・太平洋からインド洋、紅海、地中海にかけて海軍物資の供給拠点を増設し、極東では空母を含む造船能力の強化などもうたった。
新ドクトリンにはウクライナで苦戦するロシアの虚勢も見え隠れする。それでもプーチン氏が極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」の海軍艦船への本格配備を数カ月以内に始めると述べ、「われわれの主権と自由を侵害するすべての者に迅速に対応する」と威嚇したことは到底、看過できない。
北方領土の「断固防衛」やウクライナ侵略の継続、さらに新ドクトリンは日米欧への新たな挑戦であり挑発だ。日米欧は軍事・情報面での連携を強め、この脅威に備えなければならない。
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2022年8月10日付産経新聞【主張】を転載しています
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